アドラーの「他者貢献」の疑問と矛盾

他者信頼

「嫌われる勇気」で、アドラーは「貢献感こそが幸せである」と言ったとされています。

この「貢献感」ですが、同じくアドラー心理学の「課題の分離」や「承認欲求の否定」と矛盾を感じる、という話をよく聞きます。

そこでこの記事では、課題の分離や承認欲求の否定が、貢献感とどう繋がるのか?かを整理します。

課題の分離

アドラーは、全ての悩みは対人関係だと言い切ります。その上で、およそあらゆる対人関係のトラブルは人の課題への介入から起こるとしています。

他者の課題へは踏み込むべきではないし、自分の課題へ他者を介入させるべきではありません。これを「課題の分離」と呼びます。

つまり、およそあらゆるトラブルは、自分がコントロールできない他者の行為を要求すること、自分の意思とは異なる行為を他者の願望でコントロールるされること。この二つから起きています。

承認欲求の否定

アドラーは承認欲求を否定します。

これは、課題の分離の具体のひとつとして捉えて間違えありません。他者が自分を承認するかどうかは他者の課題だからです。

これに振り回されてたり、これで他者からコントロールされていては、対人関係はうまく回りません。

しかし、承認欲求というくらいで、これは人の欲求です。なくすこと等できるのでしょうか。アドラーの答えは、これを別のモノで埋め合わせると言っていいと思います。

そのひとつが「感謝」です。承認と感謝は全く別の類のものです。

何が違うのか?

前述したように、アドラーは、課題の分離で他者からの支配を避けます。支配を招くかどうかに、承認と感謝には明らかな違いがあります。

これを言い換えれば、目線の位置です。承認は上から、感謝は対等の目線です。

この感謝とは別に、承認を埋め合わせるもののもう一つが、自己承認です。

人は、他者からの承認でなく、自分で自身を受け入れ認めることができます。これは、アブラハムマズローの「欲求5段階説」でも同類のことが言われています。

5段階のうちの4番目の欲求が承認欲求ですが、マズローはこの承認の欲求には更に2段階に分かれていて、それが「自己承認」と「他者承認」であると言っています。

自己承認は、他者承認よりも自己実現に近い高次な欲求です。

貢献感

ここまでまとめた、承認欲求の否定を含む、課題の分離は、決して他者への関心を持つなとか、距離を取れと言うようなディスコミュニケーションを説いているわけではありません。

これは、他者との関係でトラブルを起こさず、円滑に良い関係を築くステップです。

課題の分離を身に付けたうえで、他者との関係性を築きます。そして、その第一歩が貢献感です。

この貢献感についてアドラー心理学では、次のように語られています。

「わたしは誰かの役に立っている」という主観的な感覚を、すなわち「貢献感」を持てば、それが幸せ、幸せとは貢献感のことです。

なぜなら、われわれはみな「わたしは誰かの役に立っている」と思えた時にだけ、自らの価値を実感するからです。

尚、貢献感とは、次の3ステップの総称です。

  • 自己受容:ありのままの自分を肯定的に受け入れること
  • 他者信頼:他者を仲間と思え無条件で信じること
  • 他者貢献:自分の価値を実感するための他者への働きかけ

他者貢献は、他者を無条件で信じて行う働きかけです。自分の価値を実感するためのものなので、他者からの承認などの見返りは期待していません。

小倉広氏の書著では、貢献は、自己満足でいいと語られています。岸見一郎氏は彼の講演などで、貢献の前提には、信頼関係があるので自己満足にはならないと語るそうです。

いずれにしても、言わんとすることは同だと思います。他者貢献は自分のためにやること、決して、求められての行いではなく、自分から与える態度のことを意味しています。

おしまいに

アドラー心理学では、自分自信を受け入れる自己受容からスタートして他者への貢献へ行きつく、この一連を幸せとしています。

これと同質の教えが仏教にもあります。

仏教では、煩悩による苦しみが、そのまま喜び(菩提)に転じる究極の幸せのことを「煩悩即菩提(ぼんのうそくぼだい)」というそうです。

水戸黄門的な「人生楽ありゃ苦もあるさ~」のような苦楽の間の時間差がなく、即、「苦しみが、そのまま、喜びへ」転じるところが究極です。

そのメカニズムはこうです。

尊厳のある本当の自分に目覚めれば、生き抜く知恵がわき、苦難に挑戦し、乗り越える確信と勇気が出て、他者へのを思いやりも現れてくる。

というものです。アドラー風に言い換えれば

ありのままの自分の存在価値を受容すれば、生きる勇気が出て、全ての悩みである人間関係の課題を乗り越え他者を信頼し、感謝を貢献に繋ぐことができる。

でしょうか。

やっぱり、幸せになれそうな気がします、最後までご覧いただき感謝いたします。

※「アドラーの『他者貢献』の疑問と矛盾」参考書籍

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