「もしアドラーが上司だったら」要約

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アドラー心理学には「共感するんだけど、実際には使いにくい。」と感じている人必見、ビジネスマン、特にコミュニケーションの本質に取り組む営業職の人には有益な実用篇といった一冊です。

上司の「ドラさん」が、主人公の「リョウ君」にアドラー式の働き術を伝授するという、明るい物語仕立てです。読みやすい構成と文体で心地よくすらすら読めました。登場するキャラクターたちがそれぞれに素直な可愛らしさがあって、明るく楽しいストーリー展開です。

あのじっとりとした「嫌われる勇気」の哲人と青年とのやりとりとはまるで正反対でした。

アドラー心理学については、「勇気」と「共同体感覚」の2軸を中心に語ります。その上で、私たちが目指す姿は「有益な人」だと言うのがこの本の主張です。

この実践アドラー心理学の整理が秀逸です。「嫌われる勇気」で考え方をじっくり抑えられていった「哲学的なアドラー」とは、また違い「すぐやるアドラー」といった軽快な仕上がりでした。

著者の小倉広さんが、リクルートを出た起業家で、組織人事コンサルタント、企業研修講師、心理カウンセラー、ビジネス書作家という肩書なのもなんだか頷けます。

この記事では「もにアドラーが上司だったら」を大筋を要約していきます。もし、内容がぴったりであれば、是非、手に取ってみてください。

「勇気づけ」編

自分を追い込んで辛くなったら…

「できていることろ」に注目する。「できていないところ」は注目しない。

現状に甘んじていていいわけがない。現状否定するから進歩がある。そんな風に人は自分を追い込みがちです。自分を責めることこそが、自分のやる気を高める唯一の方法だとばかりに、ダメな自分に注目をする。これをアドラー心理学では「負の注目」と呼びます。

朝、会社にいく。歯を磨く。時間内に会社に着く。おはようと挨拶をする。人の行動の95%は「できている」行動です。私たちは、たった5%「できていない」行動ばかりに注目して「できている」95%を無視してしまいます。

逆に、出来ていることに注目して、自分を認めることを「正の注目」と言い、これが自分への勇気づけ、心のガソリンになります。

人は勇気があれば困難を克服しようと、努力や学習、協調など「有益」な行動を選択します。勇気が欠乏すると、困難から逃げ出し、より安易な道、他者への攻撃や他者のせいにする言い訳、さらには人間関係や困難からの逃避など「無益」な行動を選択してしまいます。

人は「自分自身に能力がある。自分には価値がある」そう思えた時に、困難を克服する活力「勇気」で満たされます。

そうなって「もっともっと」と更に上を目指すようになります。いわゆるゾーン体験、フロー状態…

要は「豚もおだてりゃ木に登る」なのです。

失敗して辛くなったら…

多面的に意味付けてみる。ポジティブな面に注目する

ミスをした時「失敗」という面ばかりに注目をすれば、心のガソリン勇気は減っていきます。それで、ミスを挽回するエネルギーが奪われていきます。この失敗も「経験」であるという側面に注目をすれば、心のガソリン、勇気は増えていきます。

一見、できていないように見える「失敗」も、多面的に見れば、いい「経験」ができた、とか言うように、必ず「できているところ」はみつかります。

できごとは、ひとりひとりごと違うそれぞれの信念に基づいて規定されます。そこで、無益な感情や行動を変えるには、できごとではなく、非合理的な信念を合理的に書き換えることが必要です。これが、アドラーの影響を強く受けた心理学者、アルバート・エリスが提唱した、一般にはリフレーミングと呼ばれる手法です。

カラ元気を出すのに疲れたら…

無理やりポジティブに考えない。ネガティブな自分も、ただ見る

ネガティブな感情を押し殺してはいけません。無理やりポジティブなふりをしてはいけないのです。

まず、その自分がネガティブであることを見ます。「あ、またやっちゃってるね」と一切の評価を交えず認めます。そのうえで、ポジティブな側面の方を長く見ます。

「自己概念」と「自己体験」を一致させておく、これをカウンセリングの世界では「自己一致」といいます。これは心の健康のために、とても重要なことです。

「否認」「抑圧」「歪曲」せず、きちんとありのまま、自分に正直であることがとても重要です。

やるべき仕事にげんなりきたら…

「やりたくない」ならやめる。「やりたい」ならやる。「やらされている」と嘘をつかない。

やりたい仕事とやるべき仕事は、種類が違うように思えます。この2種類がぴったり一致したらどんなにいいでしょう。それは、「自己決定性」という考え方を持てば可能です。

目の前のやるべき仕事を、もしも、やりたくないのであれば、断ればいいのです。断らずに、やるべき仕事としてやる仕事は、それをやらないとひどい目に合うとかいう理由で、自分で選んでやると決めています。

できない仕事はもちろんあります。できない仕事はできません。やるべきでない仕事、やりたくない仕事も、同じようにやらなければいいのです。私たちは「やりたい」か「やらない」かのどちらかを自分で決めています。

これが「自己決定性」です。

これまでの人生も、すべて自分で決めてきたのです。今の仕事も、卒業した学校も、自分の性格を作り上げてきたのも自分です。自分に与えられた環境の中で、「やりたい」方を選んできたのです。

やらされているという嘘をやめる。全部、自分で決めていたこと。嫌ならやめればいい。そうわかると不思議と勇気が沸いてきます。

自分の出来の悪さに凹んだら…

「機能価値」と「存在価値」をごちゃ混ぜにしない。ありのままの自分を受け止める。

同僚と仕事での差が付いたりして、自分の出来の悪さに落ち込んだりすることがあります。自分の価値が低いと考えてしまっているのです。

仕事はその人の機能価値で実現されています。これは、後でいくらでも成長させることができます。

そのためにも、人の存在価値を認める必要があります。存在価値を認めることができる人は、人間の土台がしっかりしているので、些細なことで揺らぎません。

機能価値は、人との比較、上下優劣、縦の関係、条件付で評価する価値です。ここには、永遠に平穏は訪れません。

一方の存在価値は、誰もがひとりひとりが無条件に持っている横の関係の価値です。

これを基盤にしていない人は、機能価値の高低に一喜一憂し、常に感情が揺らぎます。すると、ますます機能価値が発揮できなくなるという悪循環に陥ります。

解決策は、ただひとつ。根拠なく自らの存在価値を認めることです。アドラー心理学では、欠点も含めたありのままの自分を認めることを自己受容といいます。

「共同体感覚」編

自分を勇気づける、次のステップとは…

毎日誰かを喜ばせる

自分を勇気づける、次のステップ。それは誰かを勇気づけることです。人が誰かを勇気づけるとき、相手は「自分には能力があり、価値がある」と思います。

すると、それに連られて勇気づけた本人も嬉しくなります。なぜなら「自分は相手の役に立っている」と強く実感できるからです。

毎日、誰かを喜ばせることをする。これが「共同体感覚」を育みます。

誰かを喜ばそうとしても、無視されたりバカにされたりする場合…

相手からの見返りを求めずに、まずは自分から始める

アドラー心理学では対人関係の基本として「課題の分離」を大切にします。「それは誰の課題か?」という問いを大切にし、相手と自分の間に境界線を弾きます。

本来、相手が決めるべき相手の課題に土足で踏み込むことを「支配」と呼びます。また、逆に本来は自分が決めるべき自分の課題に、相手を土足で踏み込ませ、それを許容するばかりか、言い分に従ってしまうことを「服従」といいます。

自分に対する反応や顔色を過剰に気にし過ぎて、本意ではない行動をとることもまた「服従」の一種です。

誰かを喜ばせる行動に対する相手の反応を気にし過ぎて、本意をやめてしまうのは「服従」ですらありません。「課題の分離」ができていない証拠です。

独り相撲でいい。独り相撲の方がいいのです。

自分の意見だけでなく、存在までも否定されたら…

自分と異なる意見を攻撃とみなさない。相手と異なる意見を言う事を恐れない。

返報性の法則とは、相手にしてもらったことを返したくなる心理を指します。これがポジティブに働くと「ご恩返し」ネガティブに働くと「復讐」につながります。

アドラー心理学では、相手の行動を「親切」ととらえるのか「攻撃」と捉えるのかは本人次第と考え、これを「認知論」と言います。

異なる意見を攻撃と見なしているのは、他者を敵とみなし、自分を劣った存在である、と考えている証拠です。もしも、他者を味方であると見なし、自分に価値があると考えれば、他者との違いを恐れなくなります。

どこの誰のために共同体感覚を示したらいいのか…

目先の競争体よりも、もっと大きな共同体を大切にする

企業や学校、地域社会などの組織に所属して目標達成を追求していると「果たして組織の判断は正しいのだろうか?」と疑わしく思うことがあります。

また、何らかの理由で転職を決断し、現在の会社を退職するとき、「自分のわがままで現在の会社に迷惑をかけてしまう。自分の判断はただしいのだろうか?」と悩むこともあるでしょう。

そんな時は「より大きな共同体の利益を優先」させます。

もしも自分が所属する組織にとって、利益となるけれど、より大きな社会全般にとって迷惑をかけてしまうのだとすれば、後者を優先した判断をすることが幸福な人生を歩むことに繋がります。

同時に、転職することでお世話になった会社に迷惑をかけてしまうとしても、次の会社で現在以上に能力を発揮し、社会の役に立つのであれば、そちたを優先することこそが良い判断になります。

仕事仲間とは信用で動くか、信頼をするのか…

会社のルールは信用で動くが淡々とこなす。しかし、対人関係は裏切られても信用する

「信用」とは条件付で信じること、「信頼」とは無条件で相手を信じることです。

私たちが務める企業組織においては条件付の「信用」と無条件の「信頼」のどちらを働かせるげきでしょうか?

企業では両方が必要となります。もしも、「信用」一本でいくとすればそれは「人に厳しく、仕事に厳しい」軍隊のような組織となります。対人関係は希薄になるでしょう。しかしその逆も問題です。「人にやさしく、仕事に甘い」組織は単なる仲良し集団で顧客満足には程遠くなります。

正解は「人にやさしく、仕事に厳しく」、つまり、会社という人格で「信用システム」を淡々と廻し一対一の人間としては「信頼システム」を回す。その両立が求められます。

リーダーはどう振舞うべきか…

相手を信じ、自分を信じて、頼る、甘える、任せる

自分でやった方が早い、そう一度でも思ったことがあるリーダーは多く、そのくらい「任せる」のは難しいわけです。

任せられない上司は部下を信頼できず、自分を信頼できていません。任せることで失敗し、かつ自分が怠け者だと糾弾されるのではないか、と恐れるのです。

逆に、任せられる上司とは、部下を信頼し、自分を信頼することができる上司です。「任せる」ことは勇気づけそのものであり、共同体感覚の発揮そのものです。リーダーシップにおいても、アドラー心理学の教えは多いに役立ちます。

おしまいに

有益な人=勇気+共同体感覚、という流れで実践を想定するアドラー心理学はとても理解しやすいと思います。

「嫌われる勇気」でよく物議になる「目的論」や「承認欲求の否定」については触れられていませんで、逆に「生の注目・負の注目」「自己決定性」「認知論」など「嫌われる勇気」になかったキーワードの紹介がありました。

また「機能価値と存在価値」という本書ならではのキーワードも、自分や他者への信頼を説明するうえで便利です。

読み終えて、私自身の課題は「信頼」だなと、改めて感じました。勇気づけになるような人への「任せ方」について研究が必要です。

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